げーむろぐ

クリアしたゲームの備忘録。RPG/アクション/ADV/ノベルがほとんど。

君の名残は静かに揺れて レビュー

君の名残は静かに揺れて、をクリア。

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タイトル画面

ユニゾンシフト2.0(旧Lycee)で興味を持ってから実に9年の歳月を経てのプレイ。
体言止めしない文章調のタイトル好きなのもありますが、
強固な意志を持つ人が秘めたる想いみたいな感じしてかっこいいですよね。
下手すると一生触れずに終わった可能性があるので
Twitterとワンコインセールに感謝しかないですね…

 

概説

Flyable Heartのヒロインの1人、白鷺茉百合のほとんど活かされてなかった設定を
掘り下げて2~3キャラ分くらいのボリュームに編纂したシナリオを読み進めるゲームです。
プレイ時間は大部分をしっかり読んで10時間弱くらいでした。

Flyable Heartは一応やっといた方がいいとのことで前回の記事の通り
履修してきたわけですが、最初の2~3時間くらいは学園部分の話で
おさらい程度には設定がわかるようになっているのでいきなりこっちでも良いと思います。
いや天音√だけはやっといた方がいいかな…?
奏龍の立場がどういうものかわかりにくいかもしれないです。

以下の点から、ビジュアルノベルというよりサウンドノベルに近いです。
・選択肢が即座にBAD行きの1つ以外存在しない
・白鷺家の人間視点だと、画面下のテキストウィンドウに名前と科白ではなく、
 画面全体に上から少しずつテキストが出ていく形に変わる
・後半は舞台が屋敷というか洋館の様な場所柄もあり、ミステリ色が若干ある

因習が強く残る名家にありがちと言えばありがちな近親描写もあるので苦手な方はご注意を。
主人公とヒロインが、というわけではないのでどぎつくは全然ないですが。


こんな人にオススメ

・名家のアクの強いお嬢様達のバトルが好きな人
・親子愛に弱い人

 

 

総評

総合評価はA+。

テーマは家族愛というか親子愛です。
巴の言動からは一見するとそのような感情は感じられませんが、
作中で霞織が最初に提起したように、茉百合の扱いのチグハグさが鍵。

キャラクターは個性豊か…というか豊か過ぎです。
初登場時の印象からして一癖も二癖もありそうなキャラばかりで、
唯一の良心っぽく見える利彦も言動の端に負の感情が垣間見えます。
奏龍もFHの天音√で見せた面とはまた違って、白鷺家内で
上手く立ち回って晶をサポートするキャラクターになっています。

システム・演出的な面では、概説にも書いた通り
誰の視点になっているかで画面デザインが大きく変わることが特徴です。
視点の切り替わりや回想の挿入が頻繁に発生するので単純にありがたいのと、
若干青みがかったようになる白鷺家視点が外の人間と比較して
鬱屈した心境になっているのを上手く表現できているかなと思います。

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白鷺家視点のウィンドウ

新曲は少ないですが、相変わらずピアノの旋律が素晴らしいのと、
笛や弦の音色が上手く雰囲気にマッチしています。
特に「闇夜の鷺」はグッと引き込まれますね。
真実を知った上での無力感とか寂寥感をひしひしと感じられます。
小百合(夜)と巴の会話で流れる「恋雫」もかなりの破壊力。
久しぶりにうるっと来ました。


個別の追記

茉百合の扱い

家の格とか利害関係とかに執着する当主に如何にして覚悟を見せつけるかの
話になると思っていたんですが、想像よりずっと複雑でした。
Flyable Heartの雰囲気からこんなストーリーになるとは…

霞織が戻ってきた辺りから一気に話が進んで一緒に推理する形になるんですが、
海外留学が嘘だった辺りで大体察して、小百合の様子からすると
単に肉体関係があっただけではなく虐待に近い感じに思えます。
父親がクズだったとかそんな単純な話でも恐らくなくて、
皇家と同じで最初の母親が早世して、娘である小百合にその姿を重ねてしまった
せいではないかと想像しています。

核心を敢えて明確にしていないし、巴と姉二人だけが知っているままであるのも
それほどに複雑な問題であるというのと、真実や「正しさ」が
常に助けになるわけではないことが強く伝わって来て良いと思います。
茉百合なら全部受け入れた上で上手くやっていけそうな気もしますが。

ただ、こうなるとよくわからないことが…


・小百合の容体を案ずるなら茉百合は遠ざけた方がいいのでは?

茉百合が晶を連れてくるまではあそこまで取り乱すことはなかったから、
結局詩織の行動が吉と出た結果になった?

 

・奏龍との婚姻は茉百合を家から離さないことと矛盾するのでは?

利彦が婿養子になっているのは格下の家の出だからであって、
表向き使用人の子である茉百合と対等もしくは格上である皇家の
しかも嫡男である奏龍が相手となると嫁ぐ選択肢しかないような…

 

巴の中で、白鷺家の体面と小百合への贖罪と茉百合への親心
せめぎ合っている状態なので、よく考えるとおかしい行動してるのも
そういった心情の表現に一役買っている…というのは好意的に解釈しすぎですかね。


キャラクターの個性

小百合は情緒不安定と思いきや、解離性同一性障害
その原因が茉百合の存在とリンクしている重要なキャラクター。
…なんですが、壊れかけてる人格が表に出てきた時の形相が中々凄まじく
こっちの方も他の人格がいることを認識できている上に2人で収まっていない模様。

霞織は姉妹内では1番マシなんですが、あまりに合理的・効率的過ぎる思考の持ち主で
人間味がなさ過ぎてこれはこれで怖い。
逃避行の失敗で大きな傷を負ったはずなので無理からぬことですが。

詩織はお調子者に見えて尋常でない執念の持ち主。
晶の客室のベッドに一晩中張り付いてるとか古戸ヱリカを思い出してヒヤッとしました。
単に刺激的なことを求めてるだけではなく、引っ掻き回してその反応を楽しんでいるフシが強い。


タイトルの意味

 

巴の過去のことを言っています。
冒頭とラストの回想がそれに該当して、茉百合を外に出す
最後の一押しになった出来事がこれなので間違いないはず。

茂樹に対する茉百合の線もありますが、立場や年齢的に「君」というのはおかしい。
与えた影響はめちゃくちゃ大きいのでこれも含む可能性はありますが。