げーむろぐ

クリアしたゲームの備忘録。RPG/アクション/ADV/ノベルがほとんど。

「夏の終わりのニルヴァーナ」― タイトルのとおり仏教色の強い泣きゲー

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タイトル画面

まともに1本のゲームの記事を書くのが久しぶりな気がします。
特徴的なタイトルで存在自体はかなり前から知っていていました。
積みゲー減ってきたしそろそろかな、と思って確保したところで
ブランドがぱじゃまソフトであることを知ってどうしたもんかと思いつつ
今年は夏ゲー2本どっちも途中で終わってしまったのでダメ元でやってみることに。

概要

タイトル 夏の終わりのニルヴァーナ
開発元 ぱじゃまソフト(ぺんしる)
ジャンル ADV(ノベル)
機種 PC
発売日 2013/01/25
傾向 仏教、クラシック、ギャグ多め
プレイ時間 約15時間(※)
総評 B+

※共通部8割方スキップしたので、ちゃんと読むと恐らく20~25時間ほど?


シナリオ

閻魔の血族である主人公が、ヒロインらの罪を裁くために生前の出来事を調べていくが、
主人公自身にもまた神族としての罪がある二重の構成となっている。
サブヒロイン3人の話は並列であるはずだが、攻略後にメインヒロインのシナリオに進むと
各シナリオでの出来事が全部起こったことになっている。

舞台

此岸(この世)と彼岸(あの世)の狭間の様な世界が舞台。
正確に言うと彼岸の一部で、登場人物の此岸での記憶を基に一時的に構築された小世界。
核となる五鈷杵と境界から先が無であることを除き、
見てくれは此岸と同一だがサブヒロイン以外に人間は存在しない。

システム

ノベルゲームではあるものの選択肢が極端に少なく、
ルート分岐が確定する選択肢1つのみ。潔い。

また一々最初からやり直さなくても各章からやり直せる。
似たようなシステムを持つ『黄昏のシンセミア』ほど細かくはないが、
ツリーを遡っていたあちらと比較すると1画面に綺麗にまとまっていて、
ご丁寧に未読がある章がわかるようになっている。

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ゲーム開始画面。好きな章から開始でき、未読がある章は点滅している。

選択肢の少なさが為せる業*1ではあるものの、
選択肢選ぶだけのゲーム+メイン以外の恋愛要素薄めであれば
理に適っているし面倒でなくて良い。

評価

総合評価

前述の通り、期待度が低い状態で始まり共通部のノリがきつめで
分岐までほぼ飛ばしてやってたんですが、
名作と言うほどではないもののやって良かったと思える作品ではありました。

タイトルに夏と入っていますが、
季節的な要素はほとんどなく輪廻と因果の話に終始します。
「夏の終わり」の意味するところは「考察」の項にて後述します。

罪を裁くと言っても既に死亡している以上裁判の様な話ではなく宗教的な話で、
「授かった生を全うしない」という観点で罪があると見なされています。
無論好んで自殺や孤独を選択する人はそうそういないので、
何故そうなるに至ったかを過去を見る能力を使って解明を図ります。
徐々に明かされる哀しいすれ違いや不器用な生き方に心を打たれる泣きゲーです。
家族愛に弱い人にとっては、本編よりこちらがメインかもしれません。

本編の方はネタバレなしで語るのが難しいのでさわりだけですが、
愛する人と世界のどっちを取るか、の命題を
仏教特有の途方もないスケールでやってくれました。
主人公が決断を迷うきっかけとなるヒロインの行動が中々の破壊力で、
回想の部分は飛ばさずにやらずに正解でした。
(こっちはギャグ要素控えめなので、普通に読めます)

問題点

意図的にクラシックの曲を使っている節があり、
交響曲第9番 新世界より 第2楽章』に関してだけは見事なんですが…
ギャグパートで『メサイアより ハレルヤ』とか『天国と地獄』とか使われるので、
ついてけないノリに変な勢いがついて何だこれ…となりがち。
『怒りの日』に関してはこのゲームの問題ではないですが、
緊迫したシーンで使用されるとCM等でも多用されているのもあり
微妙にギャグっぽくなってしまっていました。

何やそれって思った人も聞いたことがあると思うのでリンクを貼っておきます。
交響曲第9番 新世界より 第2楽章』だけはこのゲームで聴いて欲しいので貼りません。
www.youtube.com
www.youtube.com
www.youtube.com

そもそもピアノを習っていた設定に関連する部分はまだしも、
それ以外は特に噛み合ってるわけでもなく何でクラシック曲使ってるんだろうか…
Dies Irae』みたいに雰囲気合っててそれっぽくアレンジされてれば目立たない気はします。








※以下、ネタバレ全開のため注意







個別シナリオの感想

レイア・ノノ

レイアの設定と立場の変遷自体はよく見る名家の没落ですが、
それが人ではなく過去に育てた犬との再会に繋がっているのが特徴。
今際のシーンは感動的ではあるものの、見所はそれくらいです。
ノノが犬であることは初登場シーンでもう勘付くレベルですし、
過去の断片もひっかけになるようなシーンは特にありません。

ミハヤ

異常に強い自殺願望を持つに至ったのは何故なのか、を軸に話が進みます。
孤独や中傷に耐えかねて自殺未遂*2した際に
家族や仲間から向けられていた愛情に気付く、私が弱いパターンです。
このキャラクターのみ、過去の断片がミスリードを誘う様になっていて、
後妻が原因なのかと思いきや彼女も苦しんでいる側となっています。

ただこのシナリオはちょっと違和感がある部分がいくつかあって、
1つ目がミハヤが呪われていると周囲から言われている点。
彼女の誕生日と両親の命日が重なるということに起因しています。
しかし、母親の方は今でこそ珍しいのかもしれませんが、
体が弱かったり患っている女性が出産直後に亡くなることは有り得るでしょうし、
父親の方も死因を考えると然もありなん。
2つ目はレイア・ナユとの音楽会の(おそらく)直後に自殺している点。
ナユ視点でしか語られていないのではっきりとはわかりませんが、
各々精神面でプラスになる出来事であったと推測されるので展開がチグハグな気がします。
これ以前にも自殺未遂を犯しているため、自殺する勇気をもらったわけでもなさそうです。

ナユ

ぱっと見、元気溌剌な暴走超特急ですが時折見せる体の不調と寝たきりの過去が鍵。
ミハヤとは逆で、普段の言動に実態との乖離があり過去はヒントになっている。
主人公の嘘を見破る能力がまともに役に立つ唯一にシナリオでもあります。
やたらとゲームが上手いのものめり込むタイプだからではなく、
部屋で過ごす時間が圧倒的に長いせいなのは上手いこと整合性取れてるなと。

正直このキャラクターの罪はこじつけみたいなもんというか。
既に余命宣告までされている状態で先立つ不孝も何もない様な…
最後の思い出にと訪れた校舎での出会いに奮起させられて、
自分の状態を顧みず生きた証を刻むシーンは感動的。
ここがプロローグと繋がっているのもニクい演出ですね。

久遠

神族側っぽいけど出自が明言されない久遠の正体に迫るシナリオです。
奈良~平安辺りの日本に飛んだ時またか…と思ったものの、
食傷気味になっていた古代からの呪いの継承ではなく
輪廻の要素も込みで回想が作られていて掌を返しました。
また史実にも絡めていて、祟りが原因ですぐに遷都した長岡京のエピソードに
本作の登場人物を組み込んでいてリアリティが増しています。

ラストシーンは2回目以降に選択肢が出る演出を他作品で何度か目にしているので、
そちらの方がより演出面での効果があったんではないかと思いました。
それが用意されてないということは推して知るべしですが。
こっちはこっちで気の遠くなる年月2人以外が存在しない世界でかつ、
元の人格が失われても尚というところで並々ならぬ覚悟は感じます。

考察

タイトルこれで合ってんの?というところから少しだけ。
「夏」ではなくて「夏の終わり」のセットで考える必要があります。

幕間のタイトルに添えてある英文「Girls' moratorium in last summer」から、
彼岸にいる期間がモラトリアムと表現されていて、
本来の単語の意味は停滞期間みたいなニュアンスのようですが、
日本で使われる場合はほぼピーターパン症候群なのでこちらで間違いないはず。
臨死体験によりトラウマを克服して一回り成長した、
「行って帰ってくる」タイプの典型であり、
「夏の終わり」は夏という開放的な季節だったり、
夏休みという自由に振る舞える期間だったりの終焉を意味していて
辛い此岸(現実)への帰還と捉えることができます。

季節的な意味もないわけではなく、
モチーフにもなっている曼珠沙華の開花に合わせていると思われます。
夏の終わりというかもう秋に入っていて残暑と言う感じ。
作中では一応夏祭りの様なこともやっていますが、
そもそも彼岸の季節の概念があるのかどうか…

*1:カルマではない

*2:本作は死後の世界が舞台なので本当に死んでいますが