げーむろぐ

クリアしたゲームの備忘録。RPG/アクション/ADV/ノベルがほとんど。

「バタフライシーカー(+FD)」― 学生捜査員の危うい心理バランスを描くADV

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本編タイトル画面
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FDタイトル画面

バタフライエフェクト的な話なら面白そうやなとか、
この醜くも美しい世界とかうみねこのなく頃にの影響で蝶のモチーフ好きなんだよな、
とか思いつつ発売当時はいろいろあってスルーしたような気がします。

概要

タイトル バタフライシーカー
(FD) バタフライシーカー ~カオス・ナイトメア~
開発元 シルキーズプラスA5和牛
ジャンル ADV
機種 PC
発売日 2018/03/30
(FD) 2018/08/31
傾向 シリアルキラー、事件捜査、学園
プレイ時間 約15時間+約6時間(FD)
総評 A

少年少女にはヘビーな連続殺人事件

連続殺人事件の発生率が異常に高い街が舞台となっていて、
犯人に入れ込みすぎたり、被害者遺族故の葛藤があったりと
多感な時期に捜査に携わることの危うさを描いた作品です。
Trueを除き各ヒロイン個別シナリオにそれぞれBADENDが存在します。

電撃的な捜査

所謂推理モノとは趣が異なり、アリバイやトリックを考える必要はほとんどなく
一見無差別に見える被害者の共通点から犯人の意図を探り当てて
まだ容疑者が数百人単位で存在する状態から一気に1人まで絞り込みます。
主人公の死の遠因が垣間見れる能力「探査」と
驚異的なデータプロファイリング能力を組み合わせた荒業の賜物。

システム的に推理を求められることもありますが、
基本的にはそれまでのおさらいで失敗しても悔しいだけで捜査に影響はありません。
要素同士の因果関係だけ考えればいいのでADVと言ってはいますがほぼノベルです。

評価

総合評価

BADENDが印象的な作品としてはトップクラス。
一部はBADEND中にタイトルBGM「バタフライシーカー」が流れて、
音楽はそのまま途切れることなく画面だけフェードアウトしてタイトルに戻る。
この演出で一気にタイトルBGMが好きになりました。

事件1つ1つが非常によく練られていて、少しずつ明らかになっていく情報を基に
主人公とほとんど同じ視点で推理を進めていく過程が非常に楽しいです。
捜査員という立場上、また「探査」の能力からすべての情報に対して因果関係を考えるので
プレイヤー視点と主人公視点での気付きの乖離が比較的少なく済んでいます。
(例外は羽矢シナリオくらい)

ただし話自体が短めであるのに捜査部分にテキストを割き過ぎているのと、
BADEND抜きだとご都合主義的にも思えてキャラクターの成長が見えにくいです。
その割にBADへの分岐には捜査内容が関係なく、慰め方の選択肢1つで決まるので
組み合わせ方というか、重み付けがチグハグだなという印象を受けます。
TrueENDとFDのシナリオにはBADENDが存在しないのも惜しい。

個別シナリオ

天童優衣

正統派ヒロイン過ぎて敢えて書くことがあまりないですが、
BADENDでは唯一主人公が[アカオリチョウの毒に侵された]その後が描かれます。
犯人がどの様な状態にあったのかをより鮮明に認識できると共に、
各ヒロインのBADの中で最もやるせないのもこれだと思います。

テーマ曲「天童優衣」も中々良い曲です。
日常BGMの様なメロディですが、淑やかさが感じられます。

氷室千歳

最も犯人に強く影響を受けるヒロイン。
心情理解が一歩足りなかったことがBAD分岐となるのは優衣シナリオと同じですが、
過去の事件の解明までは完全に見抜けていて、犯行の当人でさえ
認識できているか怪しい部分を糾弾できるかが分かれ目になります。

BADENDでは詭弁ですらない無理やりな論理を展開して、犯人を[自決]に追い込みます。
結果、他人との接し方や他人への感情の持ち方に一切の自信がなくなり、
犯人の軌跡を辿る選択をしてしまう終わり方になっています。
主人公とヒロインの両方が事件解決後に生存しているにもかかわらず、
対応を誤ったことにより結局破滅に向かうのは中々に感情を揺さぶられます。
ラストシーンのBGMがそのままタイトルに戻っても引き継がれるエンディングの1つ*1で、
放心するような終わり方も相まって余韻が物凄いです。

早乙女羽矢

前2人と異なり、犯人にそこまで影響を受けてはいませんが
羽矢ならでは解決できた事件を捜査することになる点では共通。
そのせいか犯行動機がかなり薄っぺらいですが仕方ないか。
このシナリオのみ最初から被害者の共通点がわかり切っていて推理自体も退屈。

どちらかというと羽矢が[蜘蛛の被害者遺族]であることが重要で、
それを主人公に打ち明けるシーンに激情が集約されています。
濡れ場の直後なので飛ばさないように
なので、真の解決はTrueに持ち越す形に。

True

各ヒロインの個別シナリオで張っていた伏線を回収しきった上で
更にミスリードを誘う二段構えになっていて作りは見事、なんですが…
真犯人に同情の余地がまったくないのに透子が連続殺人犯であることは変わらず、
消化不良に終わってしまった感じではあります。
後者がひっくり返されてしまうといろいろと台無しなので前者ですね。
てっきり[市議会]絡みで保守派が暴走してるもんだと思ってたんですが…

FD

FDは推理の仕方が若干違っていて、最初から怪しい人物がわかっている状態で
アリバイ崩しと発端となった事件の捜査を同時に進めていく形を取っています。

被害者の探査で全員まったく同じ映像が見えるのも特徴的で、
能力の不調とか新キャラの方の能力を目立たせるためかとか思いきや、
真相を知ってみると腑に落ちるトリックになっていて見事です。

ただこちらも本編のTrueと同じく、捜査内容自体はかなり凝っていて面白いんですが
それ以外のシナリオとか犯行動機が弱いかな、という印象ですね。
犯人自体はかなり複雑な要因が絡み合っているのでこちらは良い。
[協力者の方が中々の小物]で、本編のキーワードである裏切りの象徴といった具合です。

後は唯一の濡れ場がかなり取ってつけたような感じ。FDだしこれは目を瞑るか。
新キャラで良い味出してるのは新山さんですね。
特徴的なキャラ付けでトリックのヒントを提示する役割を担っていますが、
千歳の助言を聞き入れて生還しているので良い関係でやっていけそうです。
純粋に良い話で事件解決後の会話の中ではここが一番涙腺緩みました。


BAD/DEAD END時の探査

共通のBAD/DEAD ENDの最後で探査してどこをやり直せばいいのか教えてくれるので、
選択肢が大量にあって少しでも間違えると死に直行する系のゲームかな、
と思いきやそういうわけではありませんでした。
BADへの辿り着き方によって探査結果が変わったら面白かったかもと思う反面、
キャラ個別のBADがあっさりしたものにならなくてよかったなと思う気持ちもあり。


作中で明言されなかった部分

DEAD ENDの原因

優衣を連れて行かなくても透子が脱獄したのは、
遠野が[直前の探査で血液を直に触った]ため。

蜘蛛が捕まってからの6年間

[3人組]が衝動を抑えられていたとは思えないが、
[シリアルキラーキラー事件]自体は6年間継続していた?
それで何も噂になっていないのはおかしい気もするが…

*1:もう1つは羽矢のBAD