げーむろぐ

クリアしたゲームの備忘録。RPG/アクション/ADV/ノベルがほとんど。

「うみねこのなく頃に」― 虚実入り混じる推理困難なADV

移植・リマスターの類は記事にしてなかったんですが、
初回プレイ時あまりに何もわかってなかったので書いてみます。


前作「ひぐらしのなく頃に」がホラー要素とキャラクター性で人気を博したのに対し、
こちらはミステリー然とした雰囲気で、実際にゲーム内のキャラクターが
劇中劇の内容について推理を行う内容となっています。


真正面からぶつかっても解ける内容にはなっておらず、
とりあえず先を読み進めて行ってEP3の魔法大戦で
匙を投げてしまったプレイヤーも多いのではないかと思いますが、
ここを耐えられるかが魔女(作者)側からの挑戦になっています。
まともに考えても辻褄が合う回答を出すことはほぼ不可能なので、
考えること自体が楽しいという人以外は深く考えずに進めてしまって
EP6から推理を始めるで良いと思います。


大事なことは、ゲーム盤の演出をそのまま受け取るのではなく
何を意味しているのかを考えることで、これが本作のテーマにもなっています。
また、ちょっとした表現の違いで保証されている内容が異なってくるので、
他のトリックと少し言い方が違うな、と思ったら注意してください。




概要

タイトル うみねこのなく頃に
開発元 07th Expansion
ジャンル サウンドノベル
機種 PC,PS4,Switch
発売日 2010/12/31(オリジナル版EP8)
2019/10/04(PC完全版)
2021/01/28(PS4/Switch完全版)
プレイ時間 約60時間+α*1
総評 B+

傾向

傾向としてはループ物*2であり言葉遊びに富んだミステリー、でしょうか。
アンチミステリーVSアンチファンタジーと銘打っている通り、
「犯人は誰か」ではなく、「どうやって実行したか」が重視されているため、
何でもあり且つ苦し紛れの弁論も目立つのでスマートな謎解きを期待する方には不向き。
探偵役が不在の出題編(EP1~EP4)は特にその傾向が強いです。

こんな人にオススメ

・少ない手がかりから考えること自体が好き
・訳の分からない状態になってもとりあえず進められる
・言葉遊びが好き
・顔芸に不快感を感じない

わからない部分は諦めて進める潔さを持っていて、
07th特有のノリと冗長さに耐えられれば完走はできると思います。

評価

傾向の方でも書きましたが、理解できるようになるまでにかなり時間がかかります。
EP1の親族間の諍いやEP3で実際にベアトリーチェと呼ばれる人物が存在を確認できる辺りは
中々楽しいポイントで、真相が気になり読み進めてしまう書き方は見事なので
「耐える」という表現は適切でないかもしれません。
ただやり切るまでにかなり時間がかかることと、似たような状況が繰り返されて
話が進んでいく中で魔法寄りの演出が増えていく形を取っているため、
特にEP1とあまり変わらず推理できる材料も増えていないEP2は非常に退屈です。


碑文の謎はちゃんと解けるようにできていて*3
ヒントが少なすぎるものの言葉遊びとしては極上の出来と言えます。
またベアトリーチェの態度の変化や、
各EPでゲーム盤とは関係ない部分で誇張されることの持つ意味なども
最後までやり切った後だと意味がわかるので達成感は一入。


ボリュームがある割にはフォローが足りていないように感じる部分があったり、
結局最後は真相を明かさないまま終わる等、賛否が分かれる部分はありますが、
刺さる人には刺さる、と言った仕上がりになっていると思います。


ただし、重要な転換点となるEP6の作りは少々残念だと感じました。
フルフル・ゼパルと試練が何を意味しているのかが非常に重要なのですが、
エリカが度々遡り手*4でゲームをかき回すため
ゲーム盤の方はまともに推理する気にならなくなってしまいました。
バトラが追い詰められてベアトリーチェが自分の秘密を曝け出す過程が必要であったのは
理解しているんですが、流石にもう少しやり方あったのではないかと思います。



以下はネタバレや考察要素を含みます。














ややこしい要素

「真実」の扱い

それっぽくタイトルを書きましたが、100%ありのままの事実はほぼ描写されません。
と言うのも誰のものでもない俯瞰の視点*5で物語を読むことができず、
必ず朗読者の演出、または観測者の主観が差し込まれることによって
見たままの内容をどう解釈するかはプレイヤー次第、という形を取ることがほとんどです。

と言ってもこれ自体はテキストアドベンチャー、ノベルゲームは大体そうなっているので、
意図的に信頼できない語り手を用意していることになります。

赤き真実

当然そんな状態で推理ができるわけがないので、
作中では「赤き真実」によって無限に枝分かれする可能性を絞る仕組みが存在します。
しかし、これも事実や設定をありのままに述べている内容というわけではなく、
あくまで突拍子もない推理を封じ込めるために用意された楔であり、
これを鵜呑みにして作品全体を読み解こうとすると辻褄が合わなくなります。

また現在行われているゲームについてのみ有効な宣言ではあるんですが、
ゲーム盤の外に対して使われたり作中全体の重要な設定もこれで宣言されたりして
非常にややこしい、というか何が信じられるのかわからない状態に陥りかねないため、
「当該ゲームでの設定の確認」くらいにとどめておくのが良いです。


多層構造の世界観

確定事項として起点にする事柄が皆無というのともう1つ、
異なる世界と時間軸と行き来する作りになっていることが挙げられます。
主に3つの軸が存在していて、それぞれ以下に説明します。

1986年の六軒島

劇中劇となっている1986年の描写は猫箱と言っている通り、
あらゆる可能性を内包するゲーム盤でこれは比較的わかりやく、
実際に観測された事象ではなく創作の内容となっています。

1998年の縁寿視点

12年後の現在(1998年)はゲーム盤上ではないのでループはしないんですが、
同じ1998年でも前のEPより時間が巻き戻ったり魔女の世界とリンクしています。
何故このようなことになっているのかというと、
恐らくEPごとに異なるカケラ*6となっているからと思われます。

魔女の世界

これは2種類あって、大法廷を含むゲーム盤のプレイヤーが対峙する世界と、
図書の都を含む現在の世界とリンクしている世界があります。

前者は1986年の出来事が劇中劇であることを明確にするメタ世界として存在しています。
後者についてはどう捉えるか難しいですが…カケラの裏側、の様な感じでしょうか。
EP8に関しては推理ゲームやゲーム盤の設定はあまり関係なく、
プレイヤーに宛てたメッセージとしての側面が強いのであまり意識しなくとも良いですが。

ベルンとフェザリーヌは「ひぐらしのなく頃に」とも明確に関連しているので、
誰かの創作や何かしらの概念の具現化等ではなく確かに存在するはず。
図書の都でも出来事から現実で何が起こったかを想像すると、
幾子が一なる書を公開しようとしたのを十八が止めた、になるかと思います。

*1:追加シナリオ抜きのEP1~EP8で60時間強

*2:厳密には舞台が同じだけでループではない

*3:EP4までの情報だと初手で躓きますが…

*4:実はあの時これをやっていたからその筋書きは無効、の様な暴挙

*5:所謂神視点とかプレイヤー視点と言われるもの

*6:少なくともEP4とEP5以降は別