げーむろぐ

クリアしたゲームの備忘録。RPG/アクション/ADV/ノベルがほとんど。

「素晴らしき日々~不連続存在~」― 自己の在り方を問う哲学系ノベルゲーム

f:id:cross_claymore:20210211003255p:plain
タイトル画面

名作と謳われながらも人を選ぶとか取っつきにくいとか言われていて、
哲学/思想的な問いかけが非常に強いということだけ知っていたので
アクション挟んで満を持しての素晴らしき日々をプレイしました。

今回はセールとかではなく10周年記念のリマスター版です。

概要

タイトル 素晴らしき日々~不連続存在~
開発元 ケロQ
ジャンル アドベンチャー(ノベル)
機種 PC
発売日 2010/03/26(初回版)
2010/05/14(通常版)
2018/07/20(HD版)
2020/12/25(10th特装版)
傾向 哲学、ホラー、電波、いじめ、ループ、百合、近親、ピアノ
プレイ時間 約25時間
総評 A
一言 幸福ってなんだよ(哲学)

シナリオ

前半に虚実入り混じる奇怪な演出でプレイヤーを混乱させて、
後半で本当はどういうことだったのかを他者の視点から暴いていくと共に、
そもそも何故そんな精神状態になったのかの真相を探っていく形になっています。
この辺の作りは07thExpansion作品に通ずるものがあるところですね。

システム

オーソドックスなノベルゲーム。
ただキャラクターごとのシナリオという概念ではなく、同じ物語を別の視点から
見ていく関係上、本来の悲劇的な結末の方に寄せないと次の視点が開放されません。

特記事項

冒頭で述べたように哲学者の言葉の引用が多いんですが、
それ以外にも様々な人物・作品から引用していたりモチーフにしていたりしています。
他にも神話、戯曲、童話に飽き足らず格言や説話など多岐に渡ります。
多すぎてテーマに食い込んでるのか、文字っただけなのかがよくわからないレベル。

評価

総合評価

どういう感じ方をするにしても印象に残る作品だと思います。
ビジュアルノベル特有の特定の視点からしか見れないことを利用して
滅茶苦茶やっているんですが、これを一個人が認識する世界として
独我論と結びつけているのは面白いところ。
推理モノとして見ると反則もいいとこですが、
本作は個人の認識と在り方についてがメインなので許容範囲。

哲学的な思考や世界の仕組みについて理解できなくとも、
メインストーリー自体は曖昧な部分は残さずに終わるので
ハッピーエンドとは行かないまでも後味の悪さはなく、
主人公が自らの役割や二元論から抜け出して成長する形にもなっています。
2章まではどこまで現実か判断つかないような描写が多いものの、
以降は王道なストーリー展開でこのギャップもまた
独特の雰囲気を生み出すのに一役買っています。

面白くなるまでがかなり長いので、序盤をどう乗り切るかが肝。
ノベルなので最悪飛ばしちゃっても構わないと思います。


テーマ

世界をどう認識するかとか、幸福に生きるとはどういうことかを
自己同一性と絡めて身の丈にあって生き方をすべき、
というメッセージが込められてると思ったんですが
終ノ空*1で色々ひっくり返されてよくわからなくなりました。
死と生の距離感についての話も度々出てくるので、
タイトル通りのテーマであることは間違いないんですが…

不連続存在が何を指しているかは2つ意味があると思っていて、
1つは間宮卓司の人格交代による断続的な意識。
もう1つが各人格と過去に存在した人物との関係性。

(ネタバレのため反転)
人格を形成する最たるものは記憶の連続性であるというのを
2重に意味を持たせて上手く表現していると思います。

混迷の極みである2章

2章(卓司視点)では、被害妄想から来るホラー演出から始まり
段々ネジが飛んでいってカオスな空間が展開されます。

f:id:cross_claymore:20210211154434p:plainf:id:cross_claymore:20210211154507p:plainf:id:cross_claymore:20210211154520p:plain
f:id:cross_claymore:20210211154549p:plainf:id:cross_claymore:20210211154643p:plainf:id:cross_claymore:20210211154701p:plain
気狂いのキャラクター自体は珍しくも何ともないですが、
狂っていく過程を当事者視点で見るのは中々珍しい。
シリアスな笑いとして面白い部分も結構ありますが、
明らかに妄想である描写が冗長だったり、
テキストが欠落していて読み難かったりするのが難。
序章は最悪飛ばして最後に戻ってくるでもいいんですが、
2章は実際どうなっていたかが次章以降で解明されていくのが面白い所ではあるので
こっちはちゃんと読まないと面白さは大分失せてしまいます。
単体で見ても、死が身近な世界として描写されていて
教室での演説と共に死生観の一角を成しています。

救われない3章

3章(ざくろ視点)は、ある意味で2章までよりつらい。
いじめがエスカレートしてドラッグ絡んでくる辺りからもう
見てられない状況になるのもありますが、なまじ抜け出せる分岐が
用意されている分、壊れていく様子が生々しくてですね…
言い回しも対比されて皮肉るような形になっていて感心しつつも陰鬱な感じに。

f:id:cross_claymore:20210211025559p:plainf:id:cross_claymore:20210211025615p:plain
戯曲の言い回しを語るシーンと飛び降りに使っているシーン

気になった部分

問題点は重要でない部分もテキスト量が多い、というのがほとんど。
同じ話を別視点から見る構成上、そこはもう見たというのも当然出てくるので、
馬鹿正直に全部読むのではなく場面に応じて読み込み具合を変えると良いと思います。

序章の展開

この時点ではざくろが何やってるのか意味不明なのはまだいいとして、
百合百合しいお泊り会を長々とやられても…
穏やかな日常が本編との対比になるというのはわかるんですが、
幽霊部屋*2までほとんどが退屈な時間で非常にまどろっこしい。
飛ばし気味にやって最後にやり直す方が楽しく読めると思います。

引用が多すぎる

章の開始時のようにナレーション的に引用を用いるのは良いと思うんですが、
キャラの科白で長々と引用させるシーンが度々出てくる。
それに対して別の引用で返すようなパターンもあり、
字数稼ぎたいだけの読書感想文か?という気持ちになりました。
特に銀河鉄道の部分が酷い。まぁ由岐とざくろの会話は本オタク同士の
それなのでわからんでもないですが、それを見せられてもな…

音楽

ピアノ曲がかなり良いので、ピアノ好きな人はやって損はないと思います。

夜の向日葵

初めに流れる曲であり、この作品を象徴する曲。
様々な場面で使われていて、どの場面にも合っている様に思える。
メロディ自体も耳に残りやすく、非常に印象的な曲です。

夏の大三角

ざくろのテーマ曲。
束の間の日常の様な儚さを感じるぴったりな曲です。


他にも少し大人びた雰囲気のある「窓と光」、
感動シーンでの「小さな旋律」も良いです。

考察

最後までやった人だけ読んでください。


音無彩名の存在

プレイヤーの分身的な存在。
世界の外側から自由に観測できるが問いかけ以外の干渉はできない。
終ノ空Ⅱで卓司に近い位置にいるわけでもない美羽から
認識されているのはループの外側の存在であることの強調、
由岐が消えた瞬間に彩名視点になるのはこちら側の視点を持つことの示唆?
後者に関しては偏在転生をメタ的に用いてることの意味合いが強いかも。

水上由岐の存在

12日より前の由岐視点がないと確たることは何もわからないんですが…

まず抑えておかなければいけないのが、
1章(12日~19日)の由岐とそれより前から存在している由岐の関係。
記憶が抜け落ちているどころか羽咲に関する認識もまったく異なるので
違う人物として扱います。便宜上新旧をつけて表記。
ただし、新が旧に取って代わった訳ではなくどちらも存在している*3

ざくろの選択による分岐

ざくろが自殺しないシナリオは、唯一本当の意味での世界の分岐、ifであると仮定。
(こちらでは恐らく皆守が破壊者の役目を果たして、由岐(旧)に統合されている)
ループの開始が由岐(新)の誕生と同時とするとざくろの自殺は避けようがないし、
序章ラストのざくろの様子を見ても最早変えようがない運命であると推測できる。
ざくろとの衝突によって由岐が分裂したわけではない。

ただ、卓司はざくろの自殺より前から身体の支配には至らないものの
意識の支配力を強めていたという部分が気になる。
救世主化するまでざくろの死を受け入れられていないので、
好きな子=生きる理由が出来たというだけか。

7月7日~7月9日の欠落

構成の都合上、ざくろ視点での出来事を確定させないためにわざとこうしていそうですが、
素直に考えると由岐(旧)がずっと目覚めている状態。
他人格の意識を覗けるようになった由岐(旧)が色々動いていたと考えるのが自然で、
羽咲を守るために皆守の人格を残らせようとした結果閉じた世界が作られた。
あくまで間宮卓司内の人格のせめぎ合いが主目的であり、
であれば各々の認識の間だけでの話なので3人が共有する夢であるという見方もできる。
この場合、循環しているのは間宮卓司の意識だけになり世界は平常運転。

由岐(新)の役割

由岐(旧)が卓司の認識に合わせてできなかったこと*4を可能にするために作った、
或いは卓司が由岐(旧)が出てこれないように作った、どちらとも考えられる。

序章の86,400の意味

単純に19日の24:00できっかり一巡するということを示している。
(86.400は1日の秒数)

*1:エンディング後のおまけ的な小話

*2:序章のかなり最後の方

*3:1章と4章の12日を見比べてみても明らか

*4:地下基地への侵入等