げーむろぐ

クリアしたゲームの備忘録。RPG/アクション/ADV/ノベルがほとんど。

「終ノ空 remake」 ― 素晴らしき日々お試し版、と見せかけて…

ランスクエストをメインストーリー終わるとこまではやったんですが
どこまでやってクリア扱いにするのか微妙なところで一旦寝かせてる状態なので
先にこっちを書きます。

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タイトル画面

概要

タイトル 終ノ空 remake
開発元 ケロQ
ジャンル ノベル
機種 PC
発売日 1999/08/27(オリジナル)
2020/12/25(素晴らしき日々10th特装版同封のリメイク)
傾向 哲学、ホラー、電波、アングラ
プレイ時間 約8時間
総評 B+

シナリオ

基本的には素晴らしき日々と同じ流れで、
高島ざくろの自殺をきっかけに豹変した壊れ行く日常を舞台に
世界に対しての自己の在り方を問うていく形で進みます。
唯一横山やす子の視点でだけは異なる趣旨になっていて、
愛がテーマ且つ音無彩名がどういった存在なのかに踏み込む内容になっています。

システム

ノベルゲームでありますが、意味のある選択肢が非常に少なく
水上行人視点の序盤の選択肢で全員の視点が終わった後に
開放される2つのエピローグに関係してくるだけ。
素晴らしき日々と同様に、キャラクターごとのシナリオという概念ではなく
同じ物語を別の視点から見ていく形になります。

評価

総合評価

単体で見ると意味不明な部分が多い作品ですが、
素晴らしき日々プレイ後にやると多少は理解できるものの
そちらと比較してしまい粗が目立つと言った難しい作品。
下地作りが圧倒的に不足していて唐突な展開や
実感を伴わない哲学的要素の投げかけが多い。
反面、小ボリュームなので当然ですが
冗長な前置きは皆無で最初からクライマックスです。
もうちょっとこう何というかバランスというか。

基本的には素晴らしき日々の癖の強い要素を更に極端にして
核の部分以外を削ぎ落した様な作りになっていますが、
横山やす子視点だけは独自の価値観が見られます。
これに関しては長くなるので別項で。


本作だけでなく、素晴らしき日々のネタバレも含むため注意。






素晴らしき日々との比較

大きな違いとしては以下の点があります。

素晴らしき日々 終ノ空
作品全体の雰囲気 前向き(どう生きるか) 後ろ向き(何故生きるのか)
間宮卓司の人格 複数の人格 救世主人格
一部キャラの置かれている環境 陰湿(いじめ+クスリ) 苛烈(虐待+ヤ〇ザも絡む)

個別に細かく見ていきます。

作品全体の雰囲気

サブキャラクターに至るまで、というかサブキャラクターの方がより一層
凄惨な過去を持っている場合が多く、全体的に暗い雰囲気に仕上がっています。
延々と続く平凡な日常や、世界の連続に対する蓋然性など、
預言を変わらない現状からの脱却と捉えてさえいる感じも。

間宮卓司の人格

素晴らしき日々ではこのキャラクターの存在自体が
作品のテーマにガッチリハマっていました。
(認識する世界の違い、記憶の不連続性など)
特異なキャラクターでありながら中核に座す存在であったんですが、
本作では救世主の人格しか存在しないため、存在感…はバリバリあるんですが
あくまで特定の役割を割り当てられたキャラクター、程度に留まっています。
方舟において腹心と呼べる部下もおらず、
やす子の言っていたように他人を理解できない完璧な存在の体現者。

一部キャラの置かれている環境

作品全体の雰囲気と繋がる話ですが、
一部キャラクターが酷い仕打ちを受けている描写の表現がより苛烈です。
と言ってもプレイヤーの日常からよりかけ離れたせいで心情を慮ることが難しく、
物語開始時点では既にそうだった、という形になっているので
話の作りとしてはかなり弱く感じられます。
卓司とやす子はほぼ別物なので、直接比較できるのはざくろだけ。

素晴らしき日々ざくろ
いじめがエスカレートしていって一線を超えたところで完全に壊れてしまい、
タイミングよく舞い込んできた預言にのめり込んでいきます。
また助かるシナリオが用意されていたり、由岐や希実香との絡みがあったりもして
飛び降りの際に戯曲の引用もしている辺りがやるせないポイントになっていました。
(参考:救われない3章)

終ノ空ざくろ
物語開始時点から日常的に組織ぐるみの性的搾取が行われている状態で、
自分をいいように使っていた人物の死ぬ瞬間を見て壊れてしまうという様に、
心境が変化するプロセスがかなりシンプルにされてしまっていて
あくまでターニングポイントとしてだけの扱いになってしまっています。

横山やす子視点

オリジナルにはなくremakeで追加されたシナリオの様で、素晴らしき日々
明確に差別化されている部分であり一部伏線の補足にもなっているのも頷けます。

散々人間の汚い部分を見てきて、
利用するかされるかの人間関係しか持ち得なかったのが、
若槻琴美のあまりにも真っ直ぐな姿勢に影響されていきます。
自分の幸福のために他人を利用していた行き先が
そっくり若槻琴美に向かうようになる形で、
単純に尽くすのではなく活動範囲は変わらないながらも
行動原理がまるきり変わっているところに真剣味が窺えます。

また憧れに起因する愛情が一般的なビジュアルノベルであれば
よくあるパターンではありますが、本作ではそれが際立っています。

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どうしてそこまで献身的になれるのかと問うきよしに愛とは何か語るシーン

素晴らしき日々の橘希実香と似たポジションではありますが、
あちらの終ノ空に向かう理由が贖罪であるのに対して、
こちらはあくまで若槻琴美を案じてであり、ブレなさが凄い。

リルルと音無彩名の正体についても核心に近いところまで語られていて、
素晴らしき日々で卓司やざくろに起こっていたノイズや
「神」を幻視しているのがどういうことかの伏線回収にもなっています。