げーむろぐ

クリアしたゲームの備忘録。RPG/アクション/ADV/ノベルがほとんど。

「星空鉄道とシロの旅」―人情温かい不思議なSLの旅

次は素晴らしき日々の予定だったんですが、
ノーマークだった作品に興味が湧いたので割り込みで星シロです。

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タイトル画面

三が日終わる辺りからチラホラタイトルを見かけ始めて、
そこでわかった情報は「感動する」と「あんまり長くない」だけだったんですが、
公式見に行ったらライターがEVE rebirth terrorと同じ人だったので
普段滅多にしないライター買いをしてみたら大当たりでした。

概要

タイトル 星空鉄道とシロの旅
ブランド しらたまこ
ジャンル ビジュアルノベル
機種 PC
発売日 2020/12/30
傾向 泣きゲー、巧みな伏線、社会人向け、ほっこりする
プレイ時間 約7~8時間
総評 A+
その他 ある程度文学(特に宮沢賢治)触ってると尚良いかも

無垢な少女・ノワールが鉄道の旅を通して、
「生きるとはどういうことか」を学んで成長していくお話です。

最初の森での出来事が注文の多い料理店に類似していて、
ねりの苗字が風又であることからも銀河鉄道の夜をモチーフにしていると思われます。
…少し調べた所、大筋はほぼ一致していて主役の名前にまで関連性があるので間違いないですね。

ビジュアルノベルですが、〇〇ルートみたいのはなくて一本道です。
選択肢自体は存在しますが、得られる情報が変わるだけで辿り着く場所は同じ。

評価

総合評価

本当に濃密な作品でした。
此方の推理の裏をかかれるようなシナリオの場合は驚愕や納得の感情が強くて
あまりキャラクターの感情に目が行かないんですが、本作は世界の仕組み自体が
キャラクターと直接繋がるようになっていて上手く両立できています。
進行のテンポも良く、対照的なノワールとカルハの反応で飽きがきにくいです。
が、二人が不在の会話は湿っぽくなることもあるので
この辺りある程度共感できないと、というところではあります。

引きもまた素晴らしく、本編ラストからエピローグへの繋ぎが見事。
成長した姿をこれ以上ない形で表現しながらも、
らしさは残して描き過ぎない理想的な終わり方になっていると思います。

ただしあくまで個人が成長する過程を描いているだけなので、
世界そのものとまで行かないまでも国同士の諍いであったり
組織ぐるみの計画であったりスケールの大きな
群像劇みたいな作品が好きな人には合わないかもしれません。



以下ネタバレ注意です。特にトリックの部分。
一応重大な部分は反転させますが、ここまでで気になった方は一旦閉じて実際やってみてください。
バレちゃうと魅力が3割減くらいします…












テーマ

概要でも触れた様に、生きるとはどういうことかが軸になっています。
どういう形であれ他人と関わらずに生きていくことはできないので、
相手によって適切な距離感を保つことや、頼っていい相手を
増やして1人に対しての依存度を下げることの大切さを説いています。

タイトルも中々凝っていて、前述の通り銀河鉄道の夜がモチーフな訳ですが
まんまだと流石にというのと、表現を柔らかくして星空に変えているのに加えて
"シロ"に2重の意味を持たせて内容を明確にしています。

社会人向け要素

幼い頃に想像してたのと違ったとか、末端で働く主人公と中抜きのタカセの会話、
何だかんだ外見の印象はかなり重要など辛めな話がちょくちょく出てきます。
社会人視点で見ると自らの境遇と比較してみて共感したり、
別の立場から見てみたりそれぞれで受け止め方が異なりつつも、
根っこにあるのは人間関係の複雑さであるので何かしら思うところはあると思います。

そんな社会で生きていくための強さをノワールに身につけさせたい想いが
理想的な親子や師弟関係のように見えてグッと来ます。

トリック

この世界が何なのか?から始まって、汽車は何の暗示なのか、
乗客にどういう役割があるのかが上手く物語中に埋め込まれています。
伏線の張り方も見事で、汽車の心臓がボイラーの比喩であることを
早い段階で明かした上で更に別の意味を持たせているなどシナリオの構成が巧み。

現実でないことはかなり早い段階でわかるので、
そうすると誰かの夢で残りは全員実在しない人物なのか、
全員共通の仮想現実に意識だけ飛ばしているのかとか
予想していましたが、予想外の真実が待ち受けていて度肝を抜かれました。
これもねりの件を挟んで二重に仕掛けてきたので本当に凄い。

ぼんやりと仕組みを理解しだした辺りでカルハの立場の意味に疑問を抱きますが、
これも占いの時にノワールとカルハがどちらもAB型と言っていたのを覚えていれば、
ドナーは4人とカルハが献血部屋に詳しいことからギリギリ気付けるくらいで
気付けたらかなり気持ち良さそうです。一気に流した人はもう一周すると色々見えてくるかも。

キャラクター

乗客は皆、社会で生きていく上で何かしら人間関係での悩みを抱えていて、
それぞれのキャラクターと悩みから異なる切り口でノワールに伝えていきます。
ノワールに対してというより全体の相談役であるタカセは少し異なりますが。

立ち位置が異なるカルハに関しては乗客との共通点はなく、
ノワールと対等な立場として存在しています。
ノワールが深窓の令嬢で乗客が家庭教師だとしたら、
カルハは下町の歩き方を教える市井の娘みたいな感じですかね。
程々に適当で鬱陶しい性格をしていて、いい意味で空気が読めないとでも言いますか。
本作がしんみりとし過ぎない雰囲気になってるのはカルハのおかげだと思います。
(カルビ!ロース!つって、どっちもミノだよって突っ込まれてるのにはほっこりしました)


惜しかった点

音楽鑑賞がない

ここ15年くらいのノベルゲームではないのは初めて見たかもしれない。
作品自体の出来に影響するわけではないんですが、
サントラが入手困難になりつつあるし曲も中々良いのであって欲しかったところ。

SEの使い方

というかSLの走行音ですね。
かなり雰囲気出るんですが、途中の選択肢で花江選んだ時しか聞けない模様。
用意してるなら車両の外に出てる時は基本流すにしてても良い気もしますが…


感想

この短いストーリーでよくこれだけの物を表現できたなと感心しました。
それでいてテーマはブレておらず、各要素の結びつきも不自然でない。
最近自分の評価が高い作品を見ると一本道のシナリオの作品が多いですが、
キャラクターありきでシナリオが複数存在する構成はテーマがブレやすかったり
冗長な部分や足を引っ張る部分が出てきてしまうせいな気もしてます。

他の社会人向け要素のある作品との比較

途中までは、社会人向け要素と明らかに現実でない世界からRe:LeiFとの関連性を
強く見出していて、これも仮想現実でないかと疑ってかかっていましたが違いました。
根幹は共通点が多いですが、司は途中まで社会人らしい振る舞いを演じているし、
舞台設定が丸っきり異なるので受ける印象は大分異なります。

お気に入りの曲

タイトル画面で流れる「星空鉄道ミルキィウェイ」、
日常BGMその2「列車はゆく」辺りがお気に入り。
感動するシーンやゆったりする様な曲より小気味好いテンポの曲が良く思えるのも、
作品を通して鉄道の旅に思いを馳せているからなのかもしれません。
…とは言ったものの「終わらない旅」もやはりいいですね。良い曲多いです。


考察

- 少しずつ停車時間が延びている
森(6時間)→海(不明、8時間くらい?)→山(8時間)→街(10時間)と徐々に停車時間が延びています。
これに関しては正直まだ答えが出ていない状態ですが…
駅員=医院長であることから、停車中は病院が何かしら処置をしている状態と解釈できます。
単純に徐々に症状が悪化していることを意味している?
誰か確度の高い意見あったら教えてください。

- ねりが出たり消えたりする
移植は大分前に行われていて、徐々に体に馴染んで拒否反応が薄れている=同化しているため。
ボイラー付近にはいつでも出てこれて、他は停車中にしか出てこれない?
本編中とエピローグでの世界は異なっていて、
本編中の乗客は基本的に異物としての扱い、なので最後には消える。

- タカセの死因
結論から言うと、恐らく首吊り。
・主人公と花江は比較的苦しまずに終わったのに対して、ジビエとタカセは楽に逝けなかった
・しきりに首に手をやってるのはまだ感触が残ってる
・1人だけ違うというのは明確に自分で選択した
・1人だけ本当に寄る辺がない(花江も微妙ですが)
ジビエの死因はわからんですが、山で遭難したか食い物であたったかとかですかね。
臓器提供できる状態になるのか微妙なので大分怪しいですが情報が足りない。